。。ベッドの上の乱れた布団やなにげなく置かれた。。

。。パジャマが目に飛び込んでくるのと。。。。。。。。

。。その匂いを感じたのはほぼ同時だった。。。。。。。

。。いや、匂いを感じたというより、その時の。。。。。

。。印象はにおいに包まれたという感じだった。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。それは若い女のにおいといってしまえば。。。。。。

。。それまでだが、シーツの上に投げだされた。。。。。

。。しなやかな肢体のような掛け布団の姿と。。。。。。

。。肌触りのよさそうなパジャマから漂う。。。。。。。

。。肌のようなにおいと、シャンプーの香り。。。。。。

。。なのか化粧なのか、髪の毛のにおいの。。。。。。。

。。ようでもあるなんとも女っぽい香りが。。。。。。。

。。まざりあった、心地よい、。。。。。。。。。。。。

。。からだの力が抜けていきそうな。。。。。。。。。。

。。においであった。。その心地好さに。。。。。。。

。。立ち尽くす格好になったが、。。。。。。。。。。

。。人に見つかるのを恐れる気持ちが働き。。。。。。。

。。あわてて友人の部屋に。。。。。。。。。。。。。。

。。戻ったのだった。。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。今でも、あのときのにおいを思い浮かべる。。。。

。。ことが出来るし、そのにおいを。。。。。。。。。

。。嗅ぐことを想像するだけで、なんとも。。。。。。

。。胸の内がくすぐったくなるような。。。。。。。

。。切なさと同時に、今でははっきりと。。。。。。

。。エロティックなものをわかる。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。あのにおいは、そのとき引き起こした。。。。。

。。私の胸のうちのざわめきの記憶まで。。。。。。

。。含めて、決して 消え去ることは。。。。。。。

。。ないのである。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。



鈴木隆

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。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。ちょうど今ごろの季節になると。。。。。。。

。。沈丁花の花の香りが。。。。。。。。。。。

。。街のあちらこちらで。。。。。。。。。。

。。漂うようになる。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。2月下旬から3月上旬にかけて。。。。。

。。開花して あの 。。。。。。。。。。

。。後頭部を心地好く刺激する。。。。。。。。

。。かおりが僕達に。。。。。。。。。。。。。

。。季節の移り変わりを。。。。。。。。。。

。。艶かしく知らせてくれる。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。春を告げる沈丁花。。。。。。。。。。。

。。秋を告げる金木犀。。。。。。。。。。。

。。季節の変わり目に。。。。。。。。。。。

。。誰かが。。。。。。。。。。。。。。。。

。。綿密な計画を立てたかのように。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。ちょっとした 子供の悪戯のように。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。花のなんともいえない 香りが。。。。。。

。。僕達の心を。。。むずむずと。。。。。。。

。。刺激してくれる。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。僕が初めて沈丁花の香りに。。。。。。。。

。。出合ったのは、小学生に。。。。。。。。。。

。。なる前だったような気がする。。。。。。。。

。。ある日の夕暮れ時に 僕は妹と。。。。。。。

。。家の前で なわとびの練習を。。。。。。。。。

。。していた。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。だんだん上手に飛べるようになって。。。。。。

。。何度も何度も夢中になって。。。。。。。。。。

。。なわとびを続けていた。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。すると、ある時。。。。。。。。。。。。。。

。。それまで 風がほとんど。。。。。。。。。。。

。。吹いていなかったのに、。。。。。。。。。。。

。。突然  僕の正面から。。。。。。。。。。。

。。冷たさと暖かさがほどよく。。。。。。。。。。

。。入り混じった風が 吹きぬけた。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。その時 なんともいいようのない。。。。。。。

。。良い香りがした。。。。。。。。。。。。。。。

。。今となってはそれが沈丁花の香りだと。。。。。。

。。分るけれど、当時は 何の香りかも。。。。。。。

。。知らずただ その心地好い香りに。。。。。。。。

。。包まれて ぼーーーっと していく自分に。。。

。。身をまかせていた。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。なわとびを飛びつづける音。。。。。。。。。。

。。激しくなる呼吸。。。。。。。。。。。。。。。

。。日が沈んでだんだん暗くなる空。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。沈丁花の香りを 思いっきり吸い込んで。。。。

。。僕の体中に鳥肌が立っていた。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。沈丁花の香り包まれながら。。。。。。。。。。。

。。なわとびを続けていると。。。。。。。。。。。。

。。なんだか そのまま ゆっくりと。。。。。。。。。

。。空に浮き上がっていくような。。。。。。。。。。。

。。感覚におちいった。。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。その時に おぼろげながらも。。。。。。。。。。

。。僕が日常 はっきりとした感覚で。。。。。。。。。

。。つかんでいる世界とは。。。。。。。。。。。。。。

。。別の なにやら とても 甘い。。。。。。。。。。

。。気持ちのよくなるような。。。。。。。。。。。。。

。。世界が どこかに必ず。。。。。。。。。。。。。。

。。存在するということを。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。全身で感じ取ることが。。。。。。。。。。。。

。。できたのだった。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。




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