絵本という
非日常のドアを
開いて
僕はその中に
入る
そこで僕は
しばらくの間
快適に遊ぶ


そして外へ
出て行く


またいらっしゃい
とドアの中の
世界が僕に言う
そしてドアは
閉じる


絵本は僕に対して
いつまでも
美しく有効だ
そしてそれは
僕ひとりだけの
個人的な
出来事だ


片岡義男



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日常の生活の
中のふとした
瞬間に
絵本から切り取った
ような光景に
出会うことがある


海岸沿いに
歩いていた
五人組の少年達


赤、白、黒、
青、紫
色とりどりの
ショートパンツを
はいている


赤パンの一人が
何を思ったのか
防波堤から
海をのぞきこんだ


そして
防波堤に体を
ぴったりと
くっつけて
そのまま動かなく
なってしまった


それを見ていた
白パンが
やはり防波堤に
体をくっつけて
動かなくなった


黒、青、紫
全員が
次々と
のっぺりと
防波堤に体を
あずけて
海面を
じっと見つめている


後ろを
人が通るのなんて
おかまいなしだ


かもめが
空をとぶのも
おかまいなしだ


さかなが
ジャンプするのも
おかまいなしだ


ただただ
のっぺりと
ぼーーっと
したまま


五人の
少年達は
あの時 海と
何を話して
いたのだろう?


海面に
何を
見ていたの
だろう?







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